小林泰三(こばやし・やすみ、1962〜2020年)は、1995年に『玩具修理者』で第2回日本ホラー小説大賞を受賞してデビューした作家です。KADOKAWAの公式サイト「カドブン」は追悼記事で、「ホラーだけでなく、SF、ミステリと様々に作風を広げながら、幅広く精力的な執筆をつづけてこられました」と書いています。
小林泰三でいちばん困るのは、この「3ジャンル横断」がそのまま出版レーベルの分散になっていることです。著作は角川ホラー文庫・創元推理文庫・創元SF文庫に分かれていて、書店で1か所に並びません。「どこから読むか」が決まらないのは、本人の作風ではなく棚の都合です。
本ページではレーベルごとの整理番号と、単行本・文庫の実データから順番を決めます。
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小林泰三のおすすめ|まず結論(初心者はこの3冊から)
- はじめての1冊は角川ホラー文庫『玩具修理者』 … 221ページ。デビュー作で、1994年から2011年までしか存在しなかった「日本ホラー小説大賞《短編賞》」の受賞作です。
- ミステリから入るなら創元推理文庫『アリス殺し』 … 378ページ・814円。2014年の啓文堂書店文芸書大賞を受けた代表作で、以後4冊のシリーズになりました。
- 短編で作風を見渡すなら創元推理文庫『大きな森の小さな密室』 … 358ページ・924円。創元推理文庫の整理番号M-こ-5-1、つまり東京創元社での1冊目です。
小林泰三のおすすめ 人気ランキングTOP10

順位は、①デビュー作・受賞作としての重み、②入手しやすさ(現役の文庫があるか)、③1冊あたりの読みやすさから、ヨムマップ編集部が整理しました。
| 順位 | 作品 | 文庫 | ページ | 定価 | 入門度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 玩具修理者 | 角川ホラー文庫 | 221ページ | — | ★★★ |
| 2 | アリス殺し | 創元推理文庫 M-こ-5-4 | 378ページ | 814円 | ★★★ |
| 3 | 大きな森の小さな密室 | 創元推理文庫 M-こ-5-1 | 358ページ | 924円 | ★★★ |
| 4 | 完全・犯罪 | 創元推理文庫 M-こ-5-2 | 278ページ | 726円 | ★★★ |
| 5 | クララ殺し | 創元推理文庫 M-こ-5-5 | 370ページ | 814円 | ★★ |
| 6 | ドロシイ殺し | 創元推理文庫 M-こ-5-6 | 382ページ | 814円 | ★★ |
| 7 | ティンカー・ベル殺し | 創元推理文庫 M-こ-5-7 | 390ページ | 814円 | ★★ |
| 8 | 時空争奪(SF傑作選) | 創元SF文庫 SF-こ-1-1 | 280ページ | 880円 | ★★ |
| 9 | 家に棲むもの | 角川ホラー文庫 こ2-21 | 260ページ | — | ★★ |
| 10 | 天獄と地国 | — | — | — | ★ |
ページ数・定価・整理番号は東京創元社とKADOKAWAの公式製品ページの実測値です(2026年11月時点)。
1位. 玩具修理者(221ページ/角川ホラー文庫)
壊れたものを何でも直してくれる「玩具修理者」をめぐる短編です。KADOKAWAは2023年の角川ホラー文庫『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』の紹介文で、この作品を「小林泰三の色褪せないデビュー作」と呼んでいます。
まずここからです。理由は3つあります。①デビュー作であること、②短編なので作風の判定が早いこと、③後続のホラー作家が入口にしていることです。
恒川光太郎は前掲のカドブン追悼記事に「デビュー作『玩具修理者』からずっとファンである。当時私は神奈川でサラリーマンをしており、寮の薄暗いベッドで文庫本を開き、気色悪くも完成された異形の美を持つ不思議な世界にノックアウトされていた」と寄せ、「後に私は日本ホラー小説大賞に作品を応募するが『憧れの小林泰三さんのような作家になりたい』が常に意識にあった」と書いています。ホラー・怪談小説の系譜の起点のひとつです。
単行本は1996年に角川書店から224ページで出て、1999年に角川ホラー文庫で221ページになりました。文庫化でページがほぼ増えていない(3ページ減)という、この作家では例外的な1冊です。
2位. アリス殺し(378ページ・814円/創元推理文庫 M-こ-5-4)
「不思議の国のアリス」の世界と現実が二重に進む本格ミステリです。2013年9月20日に東京創元社の単行本(創元クライム・クラブ)として出て、2014年の啓文堂書店文芸書大賞を受賞しました(出典:カドブン追悼記事)。
文庫は2019年4月26日・378ページ・814円。ここから「クララ殺し」「ドロシイ殺し」「ティンカー・ベル殺し」と4冊に広がります。ミステリから入るならここです。本格ミステリとして読んでも成立します。
3位. 大きな森の小さな密室(358ページ・924円/創元推理文庫 M-こ-5-1)
東京創元社での1冊目です。整理番号がM-こ-5-1で、2011年10月21日発売・358ページ・924円。短編集なので、1編ずつ味を確かめられます。
「◯◯殺し」シリーズの長編が合わなかった人、逆にシリーズを読む前に作風を知りたい人のどちらにも向きます。
4位. 完全・犯罪(278ページ・726円/創元推理文庫 M-こ-5-2)
2010年の単行本(252ページ)を2012年7月27日に文庫化した1冊で、278ページ・726円は創元推理文庫6冊のなかで最薄・最安です。いちばん軽く試せるミステリがこれにあたります。
5位. クララ殺し(370ページ・814円/創元推理文庫 M-こ-5-5)
シリーズ2作目で「くるみ割り人形」を下敷きにします。単行本2016年6月30日(266ページ)→文庫2020年2月28日(370ページ)。シリーズは発表順に読むのが前提なので、『アリス殺し』の次はここです。
6位. ドロシイ殺し(382ページ・814円/創元推理文庫 M-こ-5-6)
3作目。「オズの魔法使い」が下敷きです。単行本2018年4月27日(270ページ)→文庫2021年6月18日(382ページ)。著者の生前に単行本が出た最後の2作のうち1作です。
7位. ティンカー・ベル殺し(390ページ・814円/創元推理文庫 M-こ-5-7)
4作目で「ピーター・パン」が下敷き。単行本の発売は2020年6月30日で、著者が亡くなる約5か月前です。文庫は2022年10月28日・390ページで、シリーズ4冊でもっとも厚い1冊になりました。
8位. 時空争奪 小林泰三SF傑作選(280ページ・880円/創元SF文庫 SF-こ-1-1)
2024年4月26日に出た、死後の傑作選です。創元SF文庫の整理番号はSF-こ-1-1で、この作家が創元SF文庫では1冊目だということが番号から分かります。280ページ・880円。
小林泰三はSFの賞も受けていて、カドブンによれば2011年刊『天獄と地国』で第43回星雲賞(日本長編部門)、2016年刊『ウルトラマンF』で第48回星雲賞(日本長編部門)を受賞しています。SF小説として読みたい人の入口はここです。
9位. 家に棲むもの(260ページ/角川ホラー文庫 こ2-21)
2003年に角川ホラー文庫で251ページで出た短編集が、2024年に260ページで角川ホラー文庫へ再登場した1冊です。整理番号はこ2-21。没後4年たっても角川ホラー文庫の新しい番号が振られ続けていることを示します。
10位. 天獄と地国
第43回星雲賞(日本長編部門)受賞作です(2011年刊)。SFとして評価された代表作ですが、現在流通している文庫が見つけにくいため入門度は星1つにしています。古書や電子書籍で探すことになります。
小林泰三はレーベルが3つに分かれている|角川ホラー文庫・創元推理文庫・創元SF文庫
この作家を探すときに最初に知っておくべきことです。著作は3つのレーベルに分散していて、整理番号も3系統あります。
| レーベル | 整理番号 | ジャンル | 本ページで扱った冊数 |
|---|---|---|---|
| 角川ホラー文庫 | こ2-◯ | ホラー | 3冊(玩具修理者/ΑΩ/家に棲むもの) |
| 創元推理文庫 | M-こ-5-◯ | ミステリ | 6冊 |
| 創元SF文庫 | SF-こ-1-◯ | SF | 1冊 |
「小林泰三」という棚は書店に存在しません。 ホラー文庫の棚、国内ミステリの棚、SF文庫の棚を3か所まわる必要があります。これはネット書店でも同じで、ジャンル絞り込みをかけると必ず取りこぼします。
もうひとつ、整理番号を見ると欠番があることが分かります。創元推理文庫はM-こ-5-1、5-2、5-4、5-5、5-6、5-7で、5-3が公式サイトの現行商品に見当たりません。番号だけ数えて「7冊ある」と思うと1冊合いません。
| 整理番号 | 書名 | 文庫発売日 |
|---|---|---|
| M-こ-5-1 | 大きな森の小さな密室 | 2011/10/21 |
| M-こ-5-2 | 完全・犯罪 | 2012/07/27 |
| M-こ-5-3 | (現行商品に該当なし) | — |
| M-こ-5-4 | アリス殺し | 2019/04/26 |
| M-こ-5-5 | クララ殺し | 2020/02/28 |
| M-こ-5-6 | ドロシイ殺し | 2021/06/18 |
| M-こ-5-7 | ティンカー・ベル殺し | 2022/10/28 |
創元推理文庫での刊行は2012年から2019年まで約7年空いています。 その間に「◯◯殺し」シリーズの単行本が積み上がっていました。
「◯◯殺し」4部作は文庫化までの期間が毎回短くなっている

東京創元社の公式ページで単行本と文庫の発売日を突き合わせると、きれいな傾向が出ます。
| 作品 | 単行本 | 文庫 | 文庫化までの期間 |
|---|---|---|---|
| アリス殺し | 2013/09/20 | 2019/04/26 | 5年7か月 |
| クララ殺し | 2016/06/30 | 2020/02/28 | 3年8か月 |
| ドロシイ殺し | 2018/04/27 | 2021/06/18 | 3年2か月 |
| ティンカー・ベル殺し | 2020/06/30 | 2022/10/28 | 2年4か月 |
67か月 → 44か月 → 38か月 → 28か月と、4冊すべてで前の巻より短くなっています。 1作目は5年半以上待たされたのに、4作目は2年半で文庫になりました。シリーズが売れて、文庫化の判断が早まっていったことが数字に出ています。
ページ数も同じ方向で読めます。
| 作品 | 単行本 | 文庫 | 増加 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|
| アリス殺し | 254ページ | 378ページ | +124 | +48.8% |
| クララ殺し | 266ページ | 370ページ | +104 | +39.1% |
| ドロシイ殺し | 270ページ | 382ページ | +112 | +41.5% |
| ティンカー・ベル殺し | 280ページ | 390ページ | +110 | +39.3% |
4冊とも文庫のほうが厚く、平均で+42.2%。これは判型が小さくなって1ページあたりの字数が減るためで、文庫と単行本の違いで測った一般的な増加率(10作品の平均+22%)より倍近く大きい数字です。
値段は逆に下がります。単行本は4冊すべて1,870円、文庫は4冊すべて814円で、約2.3分の1。4冊そろえるなら文庫で3,256円、単行本なら7,480円です。急がないなら文庫を待つ判断に合理性があります。
デビュー作『玩具修理者』が受賞した「短編賞」はもう存在しない
もう一つ知っておくと読み方が変わる事実があります。
KADOKAWAは2023年刊の角川ホラー文庫『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』の紹介文で、こう明記しています。
1994年から2011年まで日本ホラー小説大賞に設けられていた《短編賞》部門。賞の30周年を記念し、集成として名作が復活!
つまり小林泰三がデビューした《短編賞》は、2011年で終わった部門です。この集成1には5編が収録されていて、筆頭が「玩具修理者」です。
| 収録作 | 著者 |
|---|---|
| 玩具修理者 | 小林泰三 |
| D‐ブリッジ・テープ | 沙藤一樹 |
| 白い部屋で月の歌を | 朱川湊人 |
| お見世出し | 森山東 |
| 余は如何にして服部ヒロシとなりしか | あせごのまん |
「玩具修理者」だけを安く読みたい、他の受賞作も見たいという場合は、この1冊(390ページ)が選択肢になります。
小林泰三のプロフィール|1962〜2020年

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生年 | 1962年 |
| 没日 | 2020年11月23日(58歳) |
| デビュー | 1995年『玩具修理者』(第2回日本ホラー小説大賞《短編賞》) |
| 主な受賞 | 第43回星雲賞 日本長編部門(2011年刊『天獄と地国』) 第48回星雲賞 日本長編部門(2016年刊『ウルトラマンF』) 2014年 啓文堂書店文芸書大賞(2013年刊『アリス殺し』) |
| レーベル | 角川ホラー文庫/創元推理文庫/創元SF文庫 |
カドブンの追悼記事で、長年の友人だった作家・田中啓文はこう書いています。「長年の二足の草鞋で、いつも『会社を辞めたい。でないと平日、みんなと遊ばれへんから』と言っていた。ようやく会社を辞めて、フルタイムの小説家となり、ベストセラーも連発し、これから……という矢先だった」。
小林泰三は長く兼業で書いていて、専業になった直後に亡くなったということです。牧野修も同じ記事で「小林さんはまだ出来ることの半分もしていない。これからの作家なのだ」と書いています。
没後も刊行は続いていて、2023年に『ΑΩ』が角川ホラー文庫で新しい番号(こ2-19)を得て507ページで再登場し、2024年には『家に棲むもの』(こ2-21)と創元SF文庫『時空争奪』が出ました。
よくある質問
Q. 小林泰三は何から読むのがおすすめ?
A. デビュー作の『玩具修理者』(角川ホラー文庫・221ページ)です。短編なので作風の判定が早く、KADOKAWA公式も「色褪せないデビュー作」と呼んでいます。ミステリから入りたいなら『アリス殺し』(創元推理文庫・378ページ・814円)をどうぞ。
Q. 小林泰三の最高傑作はどれですか?
A. 公式に「最高傑作」とされた作品はありません。ただし賞で評価されたのは『天獄と地国』と『ウルトラマンF』(ともに星雲賞 日本長編部門)、『アリス殺し』(啓文堂書店文芸書大賞)の3作です。現在もっとも入手しやすいのは『アリス殺し』です。
Q. 「◯◯殺し」シリーズは何冊ですか?
A. 4冊です。『アリス殺し』『クララ殺し』『ドロシイ殺し』『ティンカー・ベル殺し』で、創元推理文庫の整理番号はM-こ-5-4から5-7まで続きます。発表順に読むのが前提です。4冊そろえると文庫で3,256円です。
Q. どの出版社から出ていますか?
A. KADOKAWA(角川ホラー文庫)と東京創元社(創元推理文庫・創元SF文庫)が中心です。書店では3か所の棚に分かれるので、まとめて探したいときは著者名で検索してください。
Q. 小林泰三はいつ亡くなりましたか?
A. 2020年11月23日です。58歳でした(出典:KADOKAWA「カドブン」の追悼記事、『小説 野性時代』第207号 2021年2月号掲載)。会社を辞めて専業作家になった直後だったことが、同記事で友人の田中啓文によって書かれています。
Q. 没後も新刊は出ていますか?
A. 出ています。2023年に『ΑΩ』(角川ホラー文庫こ2-19・507ページ)、2024年に『家に棲むもの』(同こ2-21・260ページ)と創元SF文庫『時空争奪 小林泰三SF傑作選』(280ページ・880円)が刊行されました。新作ではなく、既存作の再編集・傑作選です。
まとめ|まずは『玩具修理者』から
小林泰三は、ホラー・ミステリ・SFを横断したために書店の棚が3か所に分かれてしまった作家です。迷ったらデビュー作『玩具修理者』から。ミステリが読みたいなら『アリス殺し』、短編で見渡したいなら『大きな森の小さな密室』をどうぞ。
買うときは、創元推理文庫の整理番号に欠番があること、そして「◯◯殺し」4部作は単行本1,870円・文庫814円で約2.3分の1になることを確認してください。













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